【小説】ブラックスワンメディケーション第5話「第1章:基礎から学ぶミュータント入門④」

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 奇妙な死体?

「いや、聞いたことないな」

 俺は首を左右に振りました。

「まあこの辺っていっても山の方、むしろ富山よりなんだけどね」

「北陸地区の担当者じゃなくて俺? えっと、北陸は誰だっけ?」

「残念ながら双海君の担当です。ぎりぎり岐阜県。とにかく、写真を見て」

 そう言って静子がデスクに並べた三枚の写真。横からそれを覗きこんだ俺の感想は、「何だ、動物の死体かよ」でした。イヌとクマとサルかな。いずれも血まみれで、身体の一部が欠損し、臓器が飛び出している。ひどい有様です。

「犯人がミュータントってことか?」

「それはまだわからない。けど——」

「動物愛護団体がブチ切れそうなグロ写真だが、頭のおかしい奴がやったんなら、精神科と警察の出番だな」

「違うの。よく見て、この写真——」

 静子が俺に身体を寄せ、イヌの死体の後ろ脚を指した。俺もそこでようやく不自然な点に気がつきました。

「ね、後ろ脚がイヌの足じゃなくて、人間の手になっているの。こっちのクマは潰れててわかりにくいけど、頭部が人間のもの。このサルは背中に人間の指らしきものが何本も生えているわ」

 静子の話をまとめると、発見された動物の死体はどれも一部に人間のパーツが繋がれていたそうです。さながら移植手術のように、です。

 誰がやった?

 何の目的で?

 いや、いくつかの疑問符に既に俺は答えられるんじゃないのか?

 緊張。少し鼓動が速くなりましたけど、無理やり思考を閉ざして、口を開きました。

「都市伝説の人面魚みたいなものか……」

「似てるとかそういうレベルの話じゃなくて、切断してすげ替えられているの。サルの背中から人間の指が生える? 絶対にあり得ないわ。明らかに人為的なものよ。しかも、聞いて。このクマを発見したのは高山市のお爺ちゃんだったらしいけど、猟銃で撃ち殺すまでは動いていたって」

「何だって? 誰かが殺してからやったんじゃなくて? しかし、その爺さんもよっぽどビビったんだろうな。こんなに猟銃連射しまくってさ……」

「最初の疑問の答えはイエスよ。しかも調査の結果、人間の部分のパーツは人間のもの。動物の部分はクマのものだった」

「イヌとサルも?」

 静子は頷いた。

「はぁ? わけがわからんな。そんな風に繋げた後で生きられるものなのか? 特にクマ。首と身体を総入れ替えだろ?」

 我ながら白々しい。

「そう、わけがわからないのよ。ちなみに、クマの損傷は猟銃ではないそうよ。撃ち込んだのは眉間に一発だけ。慌てて人を呼びに行って戻ってみたら、写真のように腹部が破裂していたとのこと」

「ブラックスワンだな……」

「どういう意味? あなたのあだ名?」

 静子は口元に手を当てて、くすっと笑った。

「予想できないような事件のことをそう言うんだ」

 ブラックスワンとは、直訳すると黒い白鳥です。白鳥は白いから白鳥っていう名前なわけで、黒いのであれば白鳥ではない。これが当たり前でした。でも、実際に黒い白鳥が存在するんですよ。日本にも動物園にいます。当時の生物学者たちは大騒ぎだったそうです。 天動説か地動説かというような、それまでの常識が覆る瞬間。つまり、ブラックスワンとは、事前に全く予想ができず、起きた時の衝撃がめちゃくちゃ大きい現象のことを指します。

 ちなみに、俺がブラックスワンって言われているのは、白いアルビノの俺が、黒のスーツを好んで着ているからです。所属している組織も黒十字会ですしね。まあ、からかわれてるんですよ。

 誰がそんなことを言いだしたかっていうとあの人だ。

 尊敬していたのに、信じていたのに、俺を裏切り、大切なものを全て根こそぎぶち壊していった相手。あの時から俺は一歩も前に進めていない。あの人に復讐しなければ、俺は自分の人生を生きられない。黒十字会に入ったのだってそうだ。あの人の情報が手に入ると思ったからだ。

 ああもう。考えるのは止めろ。エネルギーの無駄だ。くそ、静子がこんな写真を見せるからだ。似たようなケースに出くわしたことがあるからって、安易に結び付けようとするのは危険だ。ただの利用可能性の誤謬。きっとそうに決まってます。

 皆さんも、突然過去の嫌なこととかが浮かんできて、それで思い悩んだりくよくよしたりして動けなくなってしまうことってあるかもしれませんけど、そんなの一切無駄ですからね。未来に目を向けないといけないんですよ。

 フラッシュバックするのは仕方ないと思いますし、気分も最悪だと思いますけど、そこで勉強を頑張ることができれば、非効率的でも前に進んでるわけじゃないですか。

 この時の俺もそんな状態でしたけど、すぐに切り替えるよう努めました。でも、すぐにまた考える羽目になってしまいました。現実はいつも優しくないですね。

 それは唐突に、何の前触れもなく起こりました。

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