【小説】ブラックスワンメディケーション第3話「第1章:基礎から学ぶミュータント入門②」

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リビングのドアが開いて楓(かえで)が戻ってきました。小腹を満たすためそのまま一直線に冷蔵庫へ向かっていきます。

ショートパンツに足が細くなる効果のあるタイツを穿いて、上着はこの前買ってやったふわふわした素材のパーカーだ。それにしても下半身の防寒機能が低すぎるんじゃなかろうか。さっき寒いとか言ってたのによくわからん格好だ。
 
ちなみに俺は基本的に年中スーツです。今も。スーツってめちゃくちゃカッコよくないですか? デキる男の印象だし、とりあえずこれ着てけばどこでもオッケーだし。そこに真っ黒で光沢のあるネクタイを締めるのが俺の最強装備です。

「ああっ。お兄ちゃんコンソメ味食べたでしょー?」

「ああ、すまん。集中してたら二時ごろになっててさ。昼飯買いに行くのが面倒でな。つか、今からポテチは食うな。シチューあるから」

「んー、じゃあこれでいっか」

 楓は個包装されたクッキー数個と、グラスにミルクティーを注いだ。そして、ソファに身体をうずめて本を読むのがルーチンです。

「学校どうだった? 嫌なこと言われたり、おっぱい触られたりとかなかったか? もしあったら俺がぶっ飛ばしてやる」

「ないない。おっぱいはぺったんこだし」楓は両胸に手を当て、切なげな表情で擦りながら言った。「まあ普通だよ。あ、でも、物理が波動の分野に入ってちょっと難しくなったかな。イメージはわかったけど、数式がねぇ……。問題集解こうとするとうーん、てなっちゃう。力学の方が好きだったよー」

 そして、時間にして十分ほどですが、ここで楓と他愛もない会話をするのが俺の日課です。一日の大半を孤独に過ごしている俺にとって、楓とのこの時間が何よりの薬になるんです。自ら望んだ孤独なんですけど、楓の存在はありがたいですね。大事にしていかないといけないなって、いつも思ってます。

「じゃあ私、本読むね」

 楓は文庫本を開いてそう言った。名残惜しいが終わりの時間だ。手にしているのはモンテクリスト伯の第四巻。デュマ・ペールが書いた全七巻の大作ですね。これで二周目くらいじゃないかな。こんな膨大な量よく読めるなって思います。

 本当にうちの妹は読書好きなんです。だからこの小説も最初に読ませてやりたいと思ってて、楓の描写には結構木を使ってるんですよ。変なこと書いたら怒られちゃうからね。

「あ、そうだ。今日もうすぐ静子(しずこ)が来るから」

「え、真理ちゃん? どうして? まさか早めの?」

「何だ、早めのって? 黒十字会の件らしい」

「ああ、なぁんだ。了解!」

 楓はびしっと敬礼をすると再び目線を本に落とした。何を納得したんでしょうね。

 ところで今、楓は文庫本に手を触れずに読書をしています。両手をだらりと下げてリラックスした状態です。何故なら妹もまた、俺と同じでミュータントだからです。

 どういうことかというと、プロローグでミュータントとは炎や雷を操ったりする特殊能力者であると言いました。この特殊能力を「ミュータントエナジー」と呼びます。これは一人に一つずつ固有のものです。その人のDNAによるので生涯不変です。

 そして、ミュータントは全員「メディア」という微小な粒子を体内で合成でき、放出して自在にコントロールできるんですよ。肉眼では見えないけど、質量もあるので物を動かすことができます。ちょうどサイコキネシスみたいに。

 メディアっていうのは媒介って意味ですけど、文字通りミュータントエナジーの媒介なんですね。

 例えば、無数のメディアを一直線に伸ばせる炎術系のミュータントが、ミュータントエナジーを発動させたら、そのメディアがあるところだけに、一直線に火柱が上がります。メディアがないところが燃えることはないです。メディアを介さなければミュータントエナジーの発現はない。

 まあ、ミュータントエナジーなんて日常生活では使うことはないですけど、メディアは別です。メディアは日常生活でめちゃくちゃ使えます。

 さっきの妹の例に話を戻すと、体内で合成し放出した大量のメディアを集め、両手のような形を作り、それで本を支えてページまでめくってるんです。知らない人が見たら宙に本が浮いてるように見えます。

 さらにその合間に、ソファから一歩も動かないで冷蔵庫を開け、ペットボトルのジュースをグラスにおかわりして、また冷蔵庫を閉めて、クッキーの包装を破って口の中に放り込んでます。

 このメディアの使い方はよく「ハンド」って呼ばれてます。手のようにメディアを使っているからですね。便利ですけど、こうやって自在に動かせるようになるにはちょっと練習がいります。

 他にも「ロープ」とか「ウイング」とか「バリア」とか色々ありますが、メディアの使い方については順に説明していきたいと思います。

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